資金調達
本日の質問
医療法人が借入限度額を超えたため、MS法人で資金調達を考えています。
どのような方法がありますか。
本日の回答/税理士 吉田正一
MS法人に事業実態があれば
・MS法人の与信(=金融機関の評価)が上がり、借入金額の枠が増やせます
・MS法人にしか出来ない資金調達手段を用いることができます
しかし、節税目的法人などMS法人に事業実態がなければ、MS法人の与信(=金融機関の評価)は低いため、MS法人の借入の際は医療法人の連帯保証や医療法人理事長の第三者保証などを求められることがあります。
また 医療法人は非営利法人であるため、金融機関はMS法人と合算して与信を測ることはありませんので医療法人の与信枠が余っていて、その分をMS法人で借入することは出来ません。
一般的な資金調達方法
・政府系金融機関(日本政策金融公庫、商工中金)からの融資
・都道府県、市町村の制度融資、制度保証
・民間金融機関からの融資、不動産などを担保にした融資
民間金融機関からの融資について一般的な証書借入のほか、手形借入、当座貸越などもあります。
不動産を担保とする融資のほか定期預金、保険請求債権、医薬品在庫を担保とする融資もあります。
次のような MS法人にしか出来ない資金調達方法もあります。
・増資、種類株式の発行
・私募債の発行
・従業員持株会の発行
・会社分割
・手形割引
特に借入金額が大きく、継続的な取引になりやすい民間金融機関からの融資について整理してみます。
民間金融機関からの融資のほとんどが
・証書借入(運転資金、設備資金用に長期にわたり毎月約定通り返済する借入)
・手形借入(一括返済する借入)のいずれかです。
● 証書借入をする際のポイント
証書借入は 長期に返済できるため、長期の利益獲得に貢献する先行投資のための資金調達に用いることが有効です。
設備投資資金のため 証書借入をする場合 借入返済額と 設備の減価償却額のバランスに注意して、借入返済に窮しない事業計画を立てることが重要です。
運転資金資金のため 証書借入をする場合 長期の利益獲得の貢献度が低いので借入管理表の作成、試算表や資金繰り表の早期作成が重要になります。
借入管理表とは
金融機関別に借入口数ごと内容を記載する表で、金融機関との話し合い、コスト削減、資金繰り表の作成に使います。
借入管理表の記載内容の例
・借入の目的
・金利、借入期間、
・保証協会の保証の有無
・担保、人的保証の有無
● 手形借入をする際のポイント
手形借入は 2ケ月~1年後の一括返済であるため、賞与資金などに用います。
手形借入は 返済せず 更新すること(ジャンプ)が多いので資金繰りに返済を考慮しないことが多いのですが、金融機関から返済を求められる不安定な資金調達方法なので 次の対策が必要です。
・返済期日に合わせて 資金繰り表を作成すること
・手形借入を 証書借入にして 約定返済すること
医療法人には出来なくても、MS法人(株式会社)なら出来る資金調達もあります。
MS法人(株式会社)なら出来る資金調達方法
・私募債の発行
・従業員持株会の設置
・増資 など
私募債による資金調達とは、MS法人が医療法人の理事、親族、職員、取引先、友人 など縁故者に社債券を発行して、資金を調達する方法です。
私募債による資金調達の特徴
・MS法人は償還期日(5年後~)に私募債権者に一括返済します
・MS法人は通常私募債権者に担保を提供しません
・MS法人は毎年私募債権者に利息(5%~)を払います
・私募債権者は株主のように経営に口出ししません
従業員持株会による資金調達とは従業員持株会の会員が、お金を拠出してMS法人の株式を所有することです。
従業員持株会の会員メリット
・会員の拠出金に応じて MS法人の株式を所有できる
・高い配当により 還元できる
・給与から拠出金を預かりできる
従業員持株会の規約ポイント
・勤続年数や役職など会員資格を限定する
・従業員持株会を退会した場合拠出金で買い戻す(損益が生じない)
・決算内容は毎年開示する
・取締役会決議なしに売買できないようにする
私募債には返済する必要があるデメリットがあり、従業員持株会には少額な資金調達しか出来ないわりに運営が面倒なデメリットがあります。
それに対して増資による資金調達は
・資金を返済する必要がなく
・高額な資金調達も可能なメリットがあります
● 増資とは
従来株主や第三者から資金を募集する手続きをいい取締役会、株主総会の決議、増資登記が必要になります。
増資のデメリットは
少数株主であっても、MS法人の経営に口出しできる点にあります。
経営陣と反対意見をもつ株主は、オーナー会社にとっては面倒なので種類株式により株主の権利を制限することが有効です。
MS法人で使われることが多い種類株式
・議決権制限株式(議決権を制限された株式)
・全部取得条項付株式(MS法人が強制的に株主から買い取りできる株式)
・拒否権付株式 (反対株主の決議事項に拒否できる株式)