医療法人化のメリット・デメリット

医療法人化のメリット・デメリット

2015年01月30日(金)10:17 AM

本日の質問

人診療所を医療法人とすることを顧問税理士から勧められました。興味ある話なのですが、どうもいいことだけではないようです。医療法人化することのメリットとデメリットを教えて下さい。
 

本日の回答/行政書士 天川大輔

■医療法人のメリットとデメリットを検討する意味とは

 

医療法人は、法律上認められた特別な存在です。法律上特別に認められている以上、そこにはその存在を必要とする何らかの事情・メリットがあるはずです。しかし一方で、メリットがある以上、その裏返しとしてデメリットもあるのが当然です。

 

これら、医療法人化のメリット・デメリットをご紹介するのは簡単ですが、これらを漠然と聞いて漠然とどうしようか考えるだけではあまり意味がありません。

 

ドクターの先生方が医療法人化をご検討されているのには、何らかの理由がそこにあるはずです。

いずれご子息に病院を承継させたい、もっと幅広く事業展開をしたい、もっと節税対策をして病院を成長させたい、などなど。

 

大切なのは、「なぜ今医療法人化を目指すのか、その目的を明確にすること」です。この明確にされた目的次第によって、メリット・デメリットの程度が変わってきますし、メリットだと思っていたものがデメリットになったり、デメリットだと思っていたものがメリットとして働く可能性もあります。

 

まずは、この「医療法人化の目的」を明確にした上で、本当のメリット・本当のデメリットは何か、そしてそのメリット・デメリットの程度(重要・深刻なものなのか、それとも微々たるものなのか)をはっきりさせ、その上でどうするのか、ご検討されることをお勧めいたします。

 

■医療法人化のメリット・デメリット

以上を前提としたうえで、今週は医療法人化のメリット・デメリットをご紹介する程度にとどめておきます。

 

【メリット】

(1)経営の安定化・継続性の実現
(2)社会的・対外的信用力の向上
(3)スムーズな事業承継
(4)事業展開の選択肢・可能性の拡大
(5)節税効果への期待

 

【デメリット】

(1)剰余金の配当禁止
(2)収益業務・営利行為の制限
(3)残余財産の分配禁止
(4)社会保険加入等新たな費用・コストの発生
(5)定期的な報告等新たな義務・作業の発生

 

メリット(1):経営の安定化・継続性の実現

医療法人の存在根拠となる医療法という法律が主目的としているのも、この経営の安定・継続性の実現です。

以前のメルマガで、医療法人を設立するということは、責任者であるドクターと病院を完全に切り離し、全く別の人格・存在としてしまうことだ、と説明しました。つまり、個人診療所等の場合は「ドクター=診療所等」だったのが、医療法人化すると「ドクター≠医療法人・診療所等」となってしまうのです。

 

これは最も特徴的にはお金の面で現れます。個人の場合は「ドクターの財布=診療所等の財布」だったのが、法人化後は「ドクターの財布≠医療法人・診療所等の財布」となるのです。財布が分かれるということは、責任者であるドクターであっても病院等のお金を自由に出し入れ、使うことはできないことを意味します。これがどのように働くか。それは、『お金の流れが非常にクリアになるので、自院の経営課題や経営の現状を明確に認識することが可能となる』ことにつながります。そしてその結果、早め早めの課題発見そして対処が可能になるので、経営の安定化や継続性の実現につながっていくのです。

 

■メリット(2):社会的・対外的信用力の向上

一般論になりますが、業種を問わず、個人事業主よりも法人の方が信用性が高く評価される傾向にあります。なぜかというと、前述したとおり個人の財布と法人の財布が切り離されることによって財務の健全性が増しますし、厳格な手続きを経て法人設立されているので一定の信用性が担保されていますし、代表者が変更してもその存在自体は存続し続けるので永続性があるためです。対外的信用力が上がると何がプラスに働くか。主に3つです。

*患者の方が病院等を選択する際に有利な判断要素として働く
*より優秀なスタッフを確保できる可能性が高まる
*金融機関から融資を受ける際の審査時に評価が高くなる

 

■メリット(3):スムーズな事業承継

もうこのメルマガでは何度も触れていますが、医療法人化することの最も重要な意味は、ドクター個人と病院を完全に切り離し、全く別の人格・存在としてしまうことです。これは法律的には、責任者であるドクター個人に生じたことが、病院には影響しないことを表しています。

例えば、責任者であるドクター個人が退職してしまったり、何かしらの理由で職務を継続できない事情が生じてしまった場合、病院はどうなるのでしょうか。

個人の診療所等ですと、ドクターと診療所等は一体の関係にありますので、ドクターの方が現場から退いた場合は必然的にその診療所等も廃止という扱いになります。ご子息等に全くそのままの状態で承継させることはできません。

一方、医療法人の場合は、ドクター個人に生じたことが病院に影響しませんので、理事長であるドクターが一線を退いてもそれは単なる「理事長の交代」であり、本体である医療法人はそのまま存続し続けます。これは、代表取締役(社長)が交代してもそれは単なる一つの人事であり、株式会社自体は何の変更もなくそのまま存続し続けるとの同じです。医療法人は単なるハコであり、その中身がどうなっているかはハコ自体にはあまり関係ないとも表現できるかもしれません。そうなると医療法人の場合、存在自体はそのままの状態で維持し、トップだけを変更することが可能になります。つまり影響を最小限に留めスムーズに事業の承継ができるのです。

 

■メリット(4):事業展開の選択肢・可能性の拡大

個人の診療所等ですと、可能な業務は本来業務である医療行為の提供に限られてしまいます。ドクターの方に業務拡大の意向があっても、基本的には病院自体としては医療以外の業務はできません。

これに対し、医療法人ですと法律上、医療行為の提供以外にも、有料老人ホームの設置等の関連業務(医療法第42条)や、極端なところでは通常の株式会社と同様に収益業務もできてしまします(但し、収益業務は特別な医療法人に限定されます)。

医療行為以外の業務は、確かに別途株式会社等法人を設立すれば遂行可能なものもあります(いわゆるMS法人)。ただ、ブランド・提供サービスのイメージ統一のために○○医療法人という同一ネームで事業展開したい場合、このメリットが生きてきます。

 

■メリット(5):節税効果への期待

医療法人の場合は個人の場合と比べ、保険料の経費(損金)化や役員退職金制度の設定等、節税のための選択肢が増えます。また、医療法人としての節税メニューに加え、そこから報酬を受けるドクター個人としての節税メニューもあわせて利用することができます。親族の方を理事等役員に登録すれば、さらにその効果は上ります。

 

■デメリット(1):剰余金の配当禁止

それでは早速、一つ一つ確認したいと思います。一つ目は「剰余金の配当が禁止される」ということです。

剰余金とはかなり簡単に言ってしまえば、医療法人が稼ぎだした利益です。普通の会社であれば、利益は株主に配当という形で還元されます。しかし医療法人の場合は、いくら利益がプールされたからといって、それを出資者である社員等に配当することはできません。事実上配当とみなされてしまうような行為、例えば役員への金銭の貸し付けもダメです。これは医療法第54条で明確に禁止されています。医療法人の営利性を否定し、財務基盤の健全性を確保させるためです。

 

ではどうするかというと、施設の改善・整備、職員への給与改善にあてるほか、積立金として内部留保することになります。

 

■デメリット(2):収益業務・営利行為の制限

医療法人は地域医療の担い手として、公益性が少なからず要求される存在です。一般的な株式会社のように、自由な営利の追求は許されません。そして、医療法人が行うことができる業務の範囲は、法令等によって厳格に限定、定められています。

この収益追求業務、営利行為が自由にできない、というのが、前回のメルマガでご紹介した「剰余金の配当禁止」と相まって、医療法人化を検討するにあたり躊躇してしまう点です。

医療法人は、経営基盤、財務の安定性を強く要求されながらも、営利行為は否定されているという、ある意味矛盾を抱えた存在です。ここが中々ドクターの方々に理解されにくい点のようです。

ただ、これはあくまで「医療法人自体が」制限されているという話です。例えば別途、株式会社(いわゆるMS法人など)を作り、そこで営利行為をすることまでは禁止されていません(完全に自由というわけではないですが)。戦略的に動けば回避できるデメリットと言えます。


■デメリット(3):残余財産の分配禁止

これも中々理解されにくいデメリットです。残余財産、つまり医療法人を畳んでしまうと思い、解散をした際、普通に考えればそこに残ったお金は出資者等利害関係者で持分、出資割合等に応じて分配することになりそうです。

しかし、医療法人の場合はそれが禁止されています。どうなるかというと、残余財産は国や他の医療法人などに移さざるをえず、関係者に還元されることはありません。

ただこれも、充分な時間があれば解散時から逆算し、計画的に利益を関係者に移すことで実質上の回避は可能です。また、解散するのではなく、M&Aの一環として他の医療法人に事業を承継等することで回避する、という選択肢もあります。

 

■デメリット(4):社会保険加入等新たな負担の発生

医療法人に限ったことではありませんが、法人化した場合には基本的には、健康保険・厚生年金保険といった「社会保険」、雇用保険・労働災害補償保険といった「労働保険」に加入しなければいけません。

加入することによって当然、保険料の支払い義務が発生しますので、それはそのまま医療法人の金銭的コストになり、多くの場合、新しい金銭的負担となります。

また、従業員の数によっては就業規則という、自院における労務面に関するルールを作成し、労働基準監督署に届け出る必要が生じます。


ただ、これは純粋な負担ではなく、考え方によってはより優秀なスタッフを呼び込む、退職を防ぐ、一つの武器になります。従業員としても、やはり福利厚生面が充実し、保険についてもしっかりとカバーしている病院で働きたいと思うのは当然です。
また、就業規則の作成義務が生じたとしても、これはケースによっては病院と従業員のトラブルを早い段階で解決したり、病院側を守ることにつながることもあるので、必ずしもデメリットとは言い切れないでしょう。

 


■デメリット(5):定期的な報告等新たな事務負担・義務の発生

医療法人は地域医療に貢献する公的側面を持った存在です。また、個人医院には認められていないメリットを多く享受できます。ただ、その裏返しとして、それに見合うだけの健全性を維持しているのか国がチェックするため、医療法人にはいくつかの手続的負担・義務が定められています。

登録事項に変更が生じた場合の変更届、定款を変更する場合の認可申請等、色々手続的義務は定められていますが、最も頻繁に行う必要があるのは年に一回の事業報告の提出でしょう。医療法人は毎年、会計年度終了後3か月以内に、財務諸表等事業報告書と、監事の監査報告書を都道府県の医療法人係に提出しなければいけません。会計年度終了後3か月以内、というのは期間的に結構タイトですし、ついつい忘れてしまい都道府県から提出の催促を受けた、ということもよく耳にします。

一見手間がかかりそうですが、これは内部でマニュアルを作り、期間を過ぎないようにチェック機能を働かせれば回避できます。また、私のような行政書士に依頼すれば、時期が近付くとアラートの連絡をいたしますので、手続漏れを無くすことができます。

 



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