事務長の経理不正について
本日の質問
親族の事務長から親族外の事務長に変更する予定ですが、経理不正が起きないか不安です。
事務長による経理不正について教えてください。
本日の回答/税理士 吉田正一
● 病医院運営において不正と法令違反を起こしやすいのは院長、院長親族、事務長です
● 院長親族が事務長の場合法令違反が多く、親族以外の者が事務長の場合不正が多いです
● 親族以外の事務長には
メンバンク、会計事務所、製薬会社、医薬品卸等の担当者、病院職員コンサルタント会社 からの転職者も多く それぞれの得意分野を利用した経理不正が多いです。
さらに小規模診療所の事務長には行政書士、コンサルタントとの兼職者もあり、自分の事業への利益誘導から経理不正を行うケースもあります。
● 親族外の事務長に人事、経理の権限、責任を集中させる場合不正や法令違反を抑止し、発見する仕組みが必要です。
まずは 不正、法令違反を起こしやすい事務長の特性を知り その特性を持つ職員は事務長は 病院長が採用拒否することが最初の不正防止策です。
<不正、法令違反を起こしやすい事務長の特性>
・前職退職理由が経理不正
・借金、ギャンブル癖がある
・事業主経験者の場合 破産歴がある
・株や不動産投資をしている
・自分で医療関連事業を行っている
● 事務長が起こしやすい不正、法令違反の例
事務長に人事、経理の権限と責任が集中して病院長の管理下にない場合次のような不正や法令違反が起きやすいです。
・利益供与(着服、流用、盗難、取引先リベート等)
・情報漏えい
・労働法規違反(解雇、有給休暇拒否、パワハラ等)
人事、経理について事務長に業務執行は任せても、稟議決裁は病院長が行うことが不正抑止策として有効です。
● 事務長の不正、法令違反が発覚するケース
税務調査、労基署調査、監事の監査、決算の実査(現金、医薬品等の在庫、窓口未収金等) 顧問税理士の確認調査 から不正、法令違反が判明することが多いです。
判明した時点で病院長に知らせる仕組みが不正による損失を広げない策として有効です。
● 事務長の経理不正が起こりやすい環境
事務長の特性以上に環境により不正、法令違反が起こすケースの方が多いです。
1)理事長が公私混同
2)事務長に権限集中
3)現金帳簿がない
4)事務長以外が経理資料にアクセスできない
● まずは不正環境の改善から
1)理事長の公私混同をなくす例
・理事、監事、管理職から 親族を減らす
・院長の交際費等は 窓口現金から使わない
・監事を 外部専門家に任せる
・窓口現金管理を 複数の窓口担当者に任せる
2)事務長の権限を分散する例
・人事部、経理部、総務部をつくり それぞれ部長を置く(事務長は総務部長へ)
・ジョブローテーション、世代交代を図る
・評論家型の事務長を解任する
・事務長の評価基準と処罰対象を明確にする
● 病院長は どこに 利益供与が生じるか 知る必要がある
事務長が利益供与を受ける例
・仕入先等からのリベートや謝礼金を受ける
・医薬品、備品消耗品を水増請求して横流しする
・窓口金を着服する
・窓口未収金を訪問回収して着服する
・給与を水増して振り込む
特に仕入先、委託先からのリベートには注意を要します。
● 事務長へのリベート、謝礼金の抑止するために 病院長が行うこと
・仕入先、取引先への文書による注意喚起
・仕入先、取引先の選定経緯の文書化
・リベート契約の締結、自動更新確認
・請求書と納品書のチェック(水増請求の防止)
・謝礼金の個人受け入れを禁止(法人が受け入れ処理して 給与として支給)
・ジョブローテーションを図る
● 事務長が窓口未収金を訪問回収する場合ラッピング防止策も必要です。
ラッピングとは窓口未収金を回収して回収担当者が着服すること
ラッピング防止策の例
・窓口未収者への残高報告
・分割振込、クレジットカード払いの推奨
・訪問回収時の領収書発行
・医事課と経理課の共同管理
● 事務長に人事、経理、患者の情報が集まるので情報漏えいについて配慮する必要もあります。
事務長の情報漏えい防止ポイント
・守秘義務契約の締結(入社時、退社時)
・個人情報保護法の勉強会の実施
・機密保持の損害保険の締結
・インターネット利用、SNS利用のガイドライン作成
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