院長夫人の役割
本日の質問
夫(勤務医 30代)が開業を決意しました。
私(妻 30代)は何をすればいいでしょうか?
経営の事はよくわからないので、余計な口出しはしない方がいいでしょうか?
本日の回答/税理士 吉田正一
● 経営は意思決定の連続です。
開業に際しては 開業コンサルタントまかせにせず、院長夫妻で話し合いながら、選択肢を考え、院長が決断して下さい。
開業コンサルタントは 開業時しかいません。開業前後から院長夫妻で話し合いながら意思決定していくことは、今後さまざまな経営問題を解決する上で大きな失敗を回避することに役立ちます。
経営の事を知らなくても院長夫人が意思決定のプラスに働くケースは多いです。一例を紹介します。
● 院長夫人は患者目線を持っている。
開業する上で一番重要な患者は、既婚の30代後半~50代前半の女性です。(以下「ターゲット患者」と記載 )
ターゲット患者は 目利き能力、購買権限、クチコミ能力の全てを持っています。高い広告費を払うより ターゲット患者に注意と敬意を払う方が、経営効果は高いです。
院長夫人が30代後半~50代前半に該当するなら、自身が行きたい医院をイメージできるはずです。
院長と院長夫人で ターゲット患者をイメージし、その患者が 医院に何を求めているか知ることは、開業のアドバンテージになります。
● 院長夫人は院長の耳に入ってこない情報を持っている。
医療サービスに不満を持つ患者の対応はクレームを言わずに他院に変えるか、窓口担当者にクレームを言うかどちらかです。
マイナスのクチコミはその患者の家族、近所だけでなく、変更先の院長にも流れます。
院長夫人が 地域にコミュニティーを持っていればマイナスのクチコミが広がる前に情報を収集できます。
● 院長夫人は院長の経営判断のバランスの悪さを補正できる
経営とは 環境の変化に対応して バランスを取ることです。バランスを取るとは患者、職員、儲け のバランスを取ることです。
「儲けを無視した患者サービス」「職員を無視した院長独裁」「患者を無視した儲け主義経営」など バランスの悪い病医院の経営をチェックして、院長に直言出来るのは院長夫人、顧問税理士だけです。
院長の負担を減らし、医療に専念するために院長夫人は経営の勉強が必要です。
● 院長夫人が習得すべきは
1.お金(財務、税金)
2.職員(労務、組織)
3.患者(業務、マーケティング)の3つです
● この3つを習得して医院の
1)キャッシュフロー
2)職員定着率
3)患者件数 を安定させるのが院長夫人の役割です
● キャッシュフロー、職員定着率、患者件数の3つを安定させるために院長夫人が最初に取り組むべきは
A.決算書の見方を知る
B.就業規則を知る
C.業務マニュアルを作る の3つです
(上記3つの目的)
A.決算書の見方を知る目的は いずれ予算制度※を導入するためです。
B.就業規則を知る目的は 問題社員に早く辞めてもらい、通常社員に長く働いてもらうためです。
C.業務マニュアルを作成する目的は 業務の標準化と削減をするためです。
※予算とは 実現可能な利益、キャッシュフローを予測することです。予算に対して決算は実績であり、予算と決算を比較分析する必要があります。
(上記3つから取り組む理由)
この3つだけで 将来起こりうる経営問題の多くを解消できるからです。
例えば
・キャッシュフロー、患者件数、職員定着率の異常に一早く気づきその原因を突き止め小さい芽のうちに摘み取る。
・予算を目標管理に用い、決算に応じて評価することで、優秀な社員が長く働くことができる。
・業務マニュアルがあれば、新入職員でも患者に支障なく、対応が可能であり人手不足による医療サービス低下を防げる。
● 医院のお金を考えるとは
キャッシュフロー、職員定着率、患者件数の3つを同時に安定させるためにお金をどこから調達して、お金を何に使うのか考えること
お金をどこから調達するか
・自己資金(利益を貯めたもの)
・金融機関からの借入
・院長等からの借入(利益を院長等へ還元した上で)
お金を何に使うのか
・設備
・職員
・薬剤費、委託費、消耗品
・運営経費
・院長等への給与
● 院長夫人が弊害になるのは主婦感覚でお金を使うこと
主婦感覚でお金を使うことにより一時的にキャッシュフローを安定させるかもしれませんが、職員定着率の悪化、患者件数の減少を通じて キャッシュフローは必ず悪くなります。
主婦感覚の弊害例
・取引先は1円でも安い方がいい(品質や信頼関係を度外視)
・リスクは取らない(設備投資や職員教育はしない)
・税金は払いたくないから 利益は必要ない
・借金は怖い
● 主婦感覚を廃除するために必要な知識
1)医療経営の目的は医療サービスを提供し続けること
医療経営の目的は利益を追求することではなく、医療サービスを地域住民に提供し続けることです。
医療コストを削減して利益を追求しても、医療サービスの向上しなければ医療経営の目的は達成できません。
2)医療サービスの質を維持しながら提供し続けるために利益は必要
医療サービスとは 人的サービスと設備サービスであり、質を維持するには定期的、継続的な職員教育や設備投資が必要です。職員教育や設備投資を行うには 利益が必要です。
3)目に見えないものに価値がある
ノウハウ、信頼関係、やる気など目に見えないものにこそ価値があります。委託先への支払を1万円ケチって 10万円を損するケースは多いです。
« 個人開業医の退職金準備 | 生命保険で退職金を準備するポイント »